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生命現象の不思議を紐解く

川原 敦雄

医学教育センター (2014年8月)

2014年2月から医学教育センターに参加しております川原敦雄と申します。研究室の引っ越しの時期が山梨県観測史上初の大雪と重なってしまったのですが、最終的には無事に移動することができ、研究をスタートできる環境が整いました。私は、モデル脊椎動物としてゼブラフィッシュを用い循環器系の形成機構の研究を行っています。
 私は、大阪大学大学院医学博士課程において谷口維紹教授の指導の下、免疫系の増殖因子であるインターロイキン2(IL-2)を介する細胞内増殖シグナル伝達機構の解析を行いました。その後、博士研究員として大阪大学医学部遺伝学の長田重一先生の研究室でFas受容体を介する細胞死の分子メカニズムの研究を行いました。その当時、細胞の増殖や死がどのように制御されているのか分かっておらず、その謎解きが世界中で熾烈な競争となっていました。谷口先生と長田先生の研究室で、サイエンスに対して情熱を持って真摯に取り組むことの重要性、また、研究は思ったようには進まないものですがサイエンスを楽しむことが大切であることを学びました(謎が解けた時の喜びは何者にも代え難いものです)。この時期に世界のライバルと切磋琢磨するサイエンスの醍醐味を味合うことができたことが研究を続ける原動力になっています。
 我々の体が構築される過程では、細胞の増殖や死に加え、発生・分化がドラステックに進行します。この形態形成を個体レベルで解析したいと考え、カエルやゼブラフィッシュのシステムを活用されていた米国立衛生研究所のIgor B. Dawid博士の研究室に留学しました。Dawid博士からは、「サポートするから何でもやりたいことをやりなさい」と温かい言葉をいただいたのですが、これまでと全く異なる研究領域で自分が何をすべきか大きな戸惑いがあったのを鮮明に覚えています。これまでに習得した分子生物学および生化学的な解析技術を初期発生研究に導入することを提案しDawid博士と膝を突き合わせて熱く議論を交わすことで新たな研究をスタートすることができました。日本のサイエンスや文化を外国から見つめ直すことができたことは大変有意義な経験でした。帰国を考えている時期に京都大学で立ち上がった若手研究者の支援プロジェクトに運良く採択され、留学で学んだ初期発生研究を展開できたことが、現在につながっていると考えています。
 ゼブラフィッシュは、初期胚が透明で器官形成の大枠が2〜3日で完了するといった特性を持っています。また、化学変異原を用いゲノムにランダムな変異を導入することで器官形成過程に異常を示す変異体を作製し、その原因遺伝子を同定するといった順遺伝学的解析にも適しています。ショウジョウバエでの成功と同じように、ゼブラフィッシュ変異体の機能解析からも脊椎動物の生命現象を司る新しい作動原理が次々に明らかとなってきています。マウスように簡単に遺伝子破壊(逆遺伝学的解析)ができなかったことが問題だったのですが、新しいゲノム編集技術(TALENやCRISPR/Cas9システムなど)が開発され、簡単にゲノム改変を行うことができるようになってきましたので、今後さらに身近なモデル生物になるのではないかと確信しています。我々が樹立した解析システムが山梨大学の生命科学研究に少しでもお役に立てることがあればと願っております。
 私は、山梨大学において生物学の講義や実習を担当させていただきますので、医学部生に生命科学の不思議さや面白さを体感していただきたいと考えています。生命現象は奥深いもので、一つの疑問に対して答えることができたと思ったら、新たな難題が現れてきます。我々の研究に興味を持っていただいた学部生や大学院生と一緒に新たな謎解きに挑戦したいと考えております。

ゼブラ飼育室にて


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