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第2回サイエンス・インカレ

田口 備教さん

医学部医学科 2010年入学

2013年3月2-3日 幕張メッセ

演題『網膜神経節細胞−グリア細胞機能連関の解明』
(ポスター発表、科学技術振興機構理事長賞)

 

発表の要旨

 今回は「網膜神経節細胞-グリア細胞機能連関の解明」というタイトルでポスター発表をさせて頂きました。網膜神経節細胞の周囲には多数のグリア細胞が存在します。グリア細胞はグリア伝達物質であるATPを放出し、自身や網膜神経節細胞を情報伝達を行うことを見出しました。グリア細胞由来のATPは網膜神経節細胞に発現する「P2Y6受容体」に作用することで細胞内カルシウム上昇を引き起こし、突起(軸索)の伸展を促進する事を明らかとしました。緑内障において最も早期に観察される現象として網膜神経節細胞の軸索機能障害であることから、本研究で観察されたグリア細胞のATP放出が緑内障治療の新たなターゲットとなる可能性が考えられます。

 

発表を通じて

 私にとってこのサイエンス・インカレという場は、学内外を通じてはじめて発表する機会でした。このコーナーで、今回の経験を通じて感じたことを4点、以下に記します。

 

自身の研究を見直す絶好の機会

 私の研究内容を発表する準備段階から様々なことを学びました。サイエンス・インカレには書類選考があります。書類に自身の研究内容を綴る手順を試行錯誤することで、研究そのものに直に向い合うことができ、研究の全体像を見直す良い機会となりました。また、発表のことを考えれば当然、質疑応答の際の質問内容を予想しました。すると、様々なことが浮かんできました。こういう質問があると困る、というのがまさに自分自身に足りない知識や実験結果であるということが分かりました。つまり、私にとって今回、サイエンス・インカレに参加するということは、実施すべき実験、抄読すべき論文が明確になり、普段気づかない自身の課題に直面する絶好の機会となりました。

 

他大学・他学部の学生と交流できる場所

 サイエンス・インカレの最大の特徴のひとつが多分野にわたる学生、企業関係者、研究者などとの交流です。これは、本大学内や他学会ではほとんど経験できないことなので、今回大変貴重な経験をさせていただきました。
 様々な分野に関わる人たちと深く交流して得られる最大のメリットは、「頭がよくなる」ということです。ここでは、単に知識や様々な情報を知ることができるということだけを意味しているのではありません。一言でいえば、研究に必要な「問題解決能力」が向上するということです。様々な背景をもった人との交歓・対話の中で、研究を行った動機や思考過程を聞き出すことで、これまでの経験や習ったこと(=知識)から現状の場面や問題に使えそうなことを探してきて、あれが使えるんじゃないか、このやり方のほうがいいんじゃないかと、あれこれあてはめてみて問題を解決するための答えを出す、その引き出しが圧倒的に少ないということを私は痛感したと同時に、次に使える方策の一部を勉強することができました。

 

褒め称え合う関係

 最も驚いたことのひとつは、行動を起こせば、何かしらの反応が返ってくるということでした。例えば、ポスターを貼ればポスターの内容に興味をもってくれて話しを聴きにくる人がいるというのはもちろんなのですが、それだけではありません。パソコンを用いて動画を流した際には、“動画は何を意味するものなのか?”や少し知識のある方には“どういう性質の蛍光プローブを用いているのか?”など多くの方に興味を持っていただき、そこから会話が弾むこともありました。私以外にも眼に関する研究をしている学生がいましたので、その人とは自然と研究内容に関する話で盛り上がりました。また眼に関する悩みを抱えていらっしゃる方が多く、自分の眼に関する相談をもちかけるような感じで話しかけてくださる方もいました。さらに、質疑応答の際に質問をすれば、その後に医学部生の視点は鋭いという感想を直接いただくこともありました。受賞のスピーチの後には、周りの学生から“即興ですばらしい演説をしてすごかった”などの反響もありました。
 褒められるというのは普段なかなかないことなので、不思議な気持ちでした。褒めるのは、自分にない、あるいはできないことを他人がやってのけるからだと解釈し、それらが自分の武器なのかもしれないと思うようにしています。

 

発表すること

 開会式や特別講演が終了してからポスター発表の開始までは時間が十分にありました。私にとって初めての発表の場でしたので、緊張と不安が入り交じったような精神状態でした。最も考えていたことは、審査員の方々にどう発表しようか(どう伝えようか)ということでした。今回参加したサイエンス・インカレで自身の発表の経験を通じて、また他学生の発表を聴講したことで、発表の際に大事なことをいくつか見出した気がしました。

  1. 意気込みすぎないことが大事。威勢よすぎる人の発表は、文字を伝えようとしているように聞こえました。もちろん、メモを見ながらの発表も伝わりづらい。間違えてもいいので、言葉の使い方をどうしようと考えるより、相手に内容を理解してほしい、納得してほしい、という気持ちが伝わるようにすれば「伝わる」と感じました。
  2. 余計なことをたくさん伝えようとする人の話は伝わらないと思いました。私の場合、ポスターに時間内に説明しきれないほどたくさんの情報を掲載してしました。説明しながら聴講者の顔を伺っており、途中で理解されていないと感じた場合は、全てを伝えようとするのではなく、最も大事な1つを繰り返し説明するようにしました。
  3. 伝えたい言葉は、気合いを入れて言うことが大切。サイエンス・インカレのポスター発表は15分/回の審査が4回ありました。審査員の方々はおそらくポスター発表の2時間中、ずっと審査し続けているのだと思います。私の場合、審査が後半に立て続けにあり、それは審査員の方々が疲れ始めてきた時間でした。疲れた審査員に理解し、納得させ、高評価を得るような発表方法を考えました。そのとき頭に浮かんだのは、私の説明を一生懸命聞かないと理解できないような話し方ではいけないということでした。そこで、最も伝えたい言葉のときにのみ緊迫感を出すような説明を心がけました。
  4. 私が今回行ったポスター発表の一番の難点は、事前につくられたものを相手に一度に初めて見せて内容を伝えるというところです。静なるもの、かつ学問の専門的分野という難しいものを相手に見せつけても伝わるだろうか?どうすれば相手に納得してもらえるだろうか?と悩んでいました。それに対して、動画を準備し、動きを取り入れたことがよかったのではないかと思っています。

 発表にむけて私が目標にしていたことは、生物の分野で研究していない人に、① とても面白いと思ってもらうこと ② 生物をもう一度勉強してみたくなったと思ってもらうこと でした。生物系でない人に医学的内容を理解させようなんて最初から思っていませんでした。内容はよくわからないが、私の研究が社会にとってどれほど重要な意味をもつのかを理解していただき、話を聞くにつれて分かったような気になっていただければそれでいいと思っていました。

研究室への所属の有無に関わらず、大学生であれば必ず求められるもののひとつが、プレゼン力。今回、賞をいただきましたが、素人にわかった気にさせる説明はできていなかったと感じています。これからますますプレゼン力を向上させるべく、日々邁進していきたいと思っています。


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