この度は、北海道で行われた日本公衆衛生学会2024にて、ポスター発表をさせていただきました。初めての学会発表でしたが、様々なバックグラウンドをお持ちの先生方との交流の機会を多く得ることができ、貴重な経験となりました。公衆衛生分野で活躍されている先生方の経験や今後の展望について拝聴し、自身の視野が広がり、将来を考える上でも大変有意義な3日間を過ごすことができました。
今回の発表に際してご指導、ご支援いただきました山縣教授、大岡先生はじめ社会医学講座の皆様、ライフサイエンスコース事務局の皆様に、深く御礼申し上げます。
以下は発表の抄録です。
演題名:妊娠前の母親の高脂肪食摂取と、思春期の子どもの抑うつ傾向との関連
【目的】妊娠中の母親の高脂肪食摂取が、中枢シグナル伝達経路を変化させることにより子どものメンタルヘルス障害リスクを高めることが、数々の動物実験から示されている。ヒトを対象とする研究では、母親の栄養過多による肥満が、子どもの不安やうつ病と関連することが示唆されている。しかしながらこれらの疫学研究では、母親の高脂肪食摂取自体による子どもの抑うつ傾向への直接的な関連については調べられていない。本研究では、山梨県甲州市に住む母親の妊娠前の高脂肪食摂取と、その子どもの思春期における抑うつ傾向との関連について調べた。
【方法】甲州市と山梨大学医学部社会医学講座とが20年以上にわたり実施している、甲州市母子保健長期縦断調査(甲州プロジェクト)のデータを使用した。2007年から2009年生まれの子どもとその母親のうち、条件を満たす408人を解析対象とした。曝露は、母親の妊娠前の高脂肪食摂取について、母子健康手帳交付時に実施した「妊娠前に動物性脂肪を控えていたか否か」という質問に着目し、母親の妊娠前の高脂肪食摂取に対する意識を調べた。アウトカムは、小学4~6年時に実施したバールソン児童用抑うつ性尺度(DSRS-C)とし、いずれかの学年でスコアが16点以上だった場合を抑うつ傾向ありとした。妊娠前の高脂肪食摂取に対する意識と子どもの抑うつとの関連について、単変量・多変量ロジスティック回帰分析にて検討した。
【結果】妊娠前に動物性脂肪を控えていた116人のうち、子どもの抑うつがみられたのは14人(12.1%)であった。一方、妊娠前に動物性脂肪を控えていなかった群では、子どもの抑うつがみられたのは292人中51人(17.5%)であった。回帰分析では、妊娠前に動物性脂肪を控えなかった群は控えた群と比較して、子どもが学童期に抑うつになりやすい傾向がみられたが、二群間に有意差は認められなかった(OR 1.54[0.82-2.9])。
【結論】妊娠前の母親の高脂肪食摂取は、子どもの思春期の抑うつ傾向と関連する可能性がある。